Lifestyle Innovation | Soseki21

思考のあしあと、生活の記録。

モチベーション格差を超えて、スマートなわらしべ長者へ  落合陽一氏講演『脱近現代 多様性のある世界のために』レポート@東京都立中央図書館

f:id:Soseki21:20171001190332j:plain

 

現代の魔術師、落合陽一氏の講演に参加しました。なんと700名もの応募があったとのこと。約200席の定員に潜り込むことができたのはラッキーです。席の位置は2列目の左から2番目。大学時代にはあり得ないことですね。だいたい最後列に座っていたので。演台が向かって左側なので、ライトのせいかもしれませんが、落合氏のやや紅潮した顔がばっちり見えました。

平成29年度 ビジネスリーダー講演会「脱近現代 多様性のある世界のために」開催のお知らせ

会場の東京都立中央図書館は、地下鉄の広尾駅から出て、有栖川宮記念公園の池を眺めながら緑に囲まれた坂道を登ったところにあります。緑の木立に癒やされました。それにしても、外国人多すぎ。ここは欧米か?!という印象で、公園で遊んでいる外国人の家族の姿が目立ちました。はじめて訪れましたが、インターネットの設備も整っていて、すばらしい図書館だと感じました。

2時から4時までの講演は、濃厚な2時間でした。情報量が桁外れに多い。こんな講演やセミナーには参加したことがありません。ほんとうに。

テレビ局のカメラが入っていたので、動画で確認できるといいのですが、必死で14ページのメモを取りました。ところがペンが追いつかない。ぼくは取材の仕事をすることがありますが、ぜったいにパソコンで筆記せずにノートにメモするタイプです。だから記録には慣れているはずなのに、かつてない情報量の話に圧倒されました。

ノートに書き込みながらスマホで写真も撮ったので、掲載します。写真撮影とSNSなどに掲載可とアナウンスがあり、問題ないと思いますが、問題あればご連絡ください。削除します。

冒頭はコロイドディスプレイや、3DプリンタのABS樹脂で作ったウサギなどを特定のパスで走らせる、落合氏いわく「おもてファンシー、うら地味」というご自身の活動の紹介から始まりました。これは既にご存知の方も多いと思うので省略します。

タマゴやケーキを浮かせるTDKのCMも紹介されました。ケーキのCMでは、みんな笑っているのに、ケーキが浮力を維持できるかどうか心配でひとりだけ笑えなかったとか。

 


TDK Attracting Tomorrow Lab 『浮かせてみた』 #3ケーキ篇

 

ビデオアーティストとしての作品も多く「キラキラしたものを数式化すること」に関心があり、波動の最適化、構造化、プリンティングを組み合わせて人工知能で何かをやろうとしているとのこと。波動というキーワードで、個人的に興味深く感じました。というのは、落合氏に比べたら稚拙ですが、自分も漱石の『文学論』で文学における波動に注目していたからです。

www.bizcompass.jp

しかし、暗号化、セキュリティ、通信には弱いということは、ちょっと意外でした。魔法使いなので何でも知っていて、何でもできるのかと思っていたのですが、当たり前ですね。逆に「自分はこれが弱い」と言ってしまうところに余裕を感じます。多くのカリスマ的魔法使いには、できそうにもないことをできると言ってしまうひとも少なくないので。

大学で43人をの学生を教えるとともに、自分の会社で8人の社員と仕事をされているとのこと。この「産学協同」的な仕事を、ひとりでやっているところが凄い。世界的なトップレベルの研究者をどう育てるか、新しい技術を生み出すかについて注力され、その「最適化」がテーマだそうです。

たくさんの研究事例が紹介されましたが、以前からぼくが注目していたのは、1,180個のスピーカーを並べて位相をずらして、あるポジションでしか聞こえない音を作り出す技術です。耳の聞こえない、おじいさんやおばあさんの補聴器が不要になったり、英語と日本語を左右の耳で聞えるようにできたり、さまざまな活用方法が考えられます。

個人的には中学生の頃に、音楽のヴォーカルを消してカラオケにできるソニーから販売されていた機械を購入して、ショックを受けた経験があります。原理としては、ノイズキャンセラーと同様に左右の位相を反転させる仕組みです。たいていの楽曲でヴォーカルはセンターに定位しているので、センターの音に対してその音を反転させた位相の音を重ねると歌が消えます。しかし、10代の自分には「魔法か?!」と思いました。したがって、落合氏の研究にとても親近感を覚えます。

このような研究によって「人間と機械をどのように組み合わせるか」が落合氏の研究テーマのようです。

実際のビジネスとしては、成長分野である「介護」に注目されているとのこと。車椅子では後ろと前に介護者が必要になりますが、安い全天球カメラなどを使って半自動化することで、車椅子をリモコンで操作することができ、介護者の負荷を減らせます。すばらしい。

エビちゃん(?)という音楽好きの学生が研究している、左右のリズムを人間がまず演じて、それを機械学習させ、さらに人間にフィードバックする研究も面白いと感じました。富士通といっしょに、人間と同じ動きをする立体的な人形というかアバターというか、そんな研究もされているとか。これも面白そう。

 

f:id:Soseki21:20171001194750j:plain

 

ゴーグルを着けて現実を歪めることによって、まっすぐ歩けなくなっちゃうマシーン(個人的に命名)も面白かった。また、ムラマツ君という方が研究されているそうですが、高速フーリエ変換ニューラルネットワークでビジュアル化して解くことも、なんかすげーなと思いました(数式は分かりませんでしたが)。人間が30年間汗を流して計算したことを、あっという間に機械が解いてしまうわけです。

インドのクラクションには「I’m here.」の意味があるという話はログミーで読みましたが、ローカルにはローカルのルールがある、と。「ピーターパン症候群」は依存の病として扱われているけれど、もともと人間はお互いに寄り添って生きる社会的な存在であり「依存する生き方がふつうなのにおかしい」という主張には同意しました。

むしろこれからはケヴィン・ケリー氏の言葉を借りれば「シェア」や「リミックス」の時代であり、誰かの力をうまく利用することが大切になるかと思います。あ、これは数年前に、小林弘人氏がおっしゃっていたかもしれないですね。

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則

 

Lifestyle Innovation β: 小林弘人氏講演「僕らがWebから学ぶこと」

ここで、事前に参加者からいただいた質問に回答の時間となりました。

まず教育の問題。研究論文についてですが「コンピュータはソースコードで動くが、人間は論文で動くものである」と。したがって「論文は読み物ではない」という考え方が重要で、事実を過不足なく報告することが大切だそうです。「すべての教育は洗脳」ということは堀江貴文氏もおっしゃっていたかと思いますが、人間の知的価値に貢献するのが教育という考えを持っていらっしゃる。

日本からイノベーターを生むには?という問いでは、まず「左ききのエレン」というマンガを読んでほしい、とのことです。

 

f:id:Soseki21:20171001193651j:plain

 

この「By Nameで仕事をするのは大変」という言葉には、ふかーく頷いてしまいました。というのは、自分も受託で制作仕事をしているからです。裏方仕事に徹することがミッションであり、成果物は発注いただいたお客様の価値になります。

しかし、好きなことを仕事にするためには儲からない時期、いわゆる「死の谷」があり(マーケティング用語的にはキャズムでしょうか)、このビンボー時代を手厚く保護する仕組みが必要だとお話されていました。タマゴは簡単にできる。しかし、タマゴを孵化させるのが難しい。そのためにアーティストでもイノベーターでもやっておかなきゃならないことは「自分のコンテクスト整理」だそうです。これも深く納得。

メンタルの立て直し方という質問もありましたが、どこに時間を割くか、ということが大切とのこと。落合氏は1日19時間働いているそうで(!)、講演の最後にちょこっとスケジュールを表示させてしまうハプニングがありましたが、めっちゃ埋まってました。

これはぼくの持論であり、多くの本にも書かれていますが、要するに暇だから余計なことを悩んだりするのだろうと思います。忙しければ、悩んでいる暇がない。そういえば自分は学生のとき、失恋するとアルバイトを2つ掛け持ちして早朝から夜まで働いたっけ。

質問コーナーの次は「多様化」について。

人工知能は一度仕組みを作れば、他の事業などに横展開ができます。そこにメリットがあるそうです。つまり、超高齢社会において多様化した人々をテクノロジで支える。

 

f:id:Soseki21:20171001200004j:plain

 

義足の例を挙げられていました。義足はそれぞれの方にカスタマイズしなければならないため、大企業でやろうとするとコストがかかります。しかし、人間の手ではなく、人工知能などがセンサーによって形状を認識し、3Dプリンタで出力すれば安価で容易に作ることができる。

ただ、その個別の義足を手作りで製作することで、とても社会的に意義のある中小企業の話をどこかで読んだことがありました。

とにかく、多様化はダイバーシティの意味ではなく、画一的ではないということです。レイ・カーツワイル氏などは汎用人工知能を構想していますが、汎用型の人間のような人工知能ではなく、ある分野のプロフェッショナルな、特化型人工知能が重要だということでしょう。これは現在、IBMのワトソンがそのような特化型AIを展開していたように記憶しています。

イルカはおでこに超音波を出す部位があり、ホールホイッスルという言葉を挨拶として、相手の姿が見えなくてもお互いが水の中にいればコミュニケーションできるという例を挙げられていました。つまり、波動によってモノを認識しているわけで、波動がイルカの世界を作っているとぼくは解釈しました。

万物斉同」という荘子の言葉と「The trans formation for material things」という言葉を落合氏は使われていましたが、後者がしっくりくるそうです。

ここから、講演は言葉の問題に入っていきました。松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」は、外国人にはさっぱりわからない、と。しかし、自然をディープラーニングすることで、イメージを共有することも可能です。

近代の考え方では、最初に創造したひとに価値があるとされていましたが、人口知能のディープラーニングによって、モーツァルトはいくらでも新曲を発表し続けるようになるだろう、と。したがって「標準化はナンセンス」であり、「機械もクリエイティブになれる」という考え方は同意です。

というのは、ぼくも「天国に召された後にもぼくのブログやSNSを更新し、趣味の音楽を作り続ける人工知能があったらなあ」と考えていたので。

標準化がナンセンスということは「地方分権」につながり、たとえば自分流の解釈では、日本は全部東京のようになる必要はなく、極端なことをいえば、ネットも電気もない田舎があってもいいし、逆にSF映画みたいな未来都市があってもいい。

明治時代に言葉を作った福沢諭吉を挙げて「近代をつくるのが早すぎた」と落合氏は指摘します。「ソサエティ(society)」はそもそも「仲間連中」でしたが、中国語の道祖神を中心とした「社会」という言葉に置き換えたとのこと。「カンパニー」=会社、「カルチャー」=文化、「コミュニティ」=共同体も何かがちがう。「胡散臭い」と。

 

f:id:Soseki21:20171001200325j:plain

 

したがって、これもぼくの解釈ですが、方言は方言で標準語に変換する必要はないし、英語でしか表現できない文化を翻訳する必要はない。概念や定義あるいは使われているコンテクスト(文脈)を理解して、そのまま使っていいということです。概念や定義をいじりまわすのもいかがなものか、と感じます。特にデジタルアドバタイジング業界やマーケティング業界において。

ちょっと思い出したのは、禅のことでした。般若心経の言葉は梵語が使われていて、意味のわからない呪文みたいな部分は、そのまま梵語の言葉なんですよね。おそらくこれから機械翻訳が発展すると、翻訳と同時に、その背景にある文化の注釈みたいなコンテクストも表示すべきだと感じます。じゃないと、違う文化圏どうしの人間がコミュニケーションできないでしょう。文系と理系もそうかもしれませんが。

落合氏がギリシア人に「山紫水明」を話したところ理解できなかったので、日本は低解像度と高解像度の文化を大切にするようなお話をされたようです。この「解像度」の問題は面白いと感じました。

カイコの動きを制御して、変なカタチのまゆをはらせる研究の説明もありました。昆虫をハックするわけか、と興味深いものがあったのですが、カイコも困るんじゃないかなあ、と考えたり、それって人間の上から目線的な研究な気もするぞ、と考えたり。

研究としては面白いかもしれませんが、カイコのやりたいようにさせてあげましょう。その方が、ぼくはいいんじゃないかと思いますね。だって、カイコは生き物じゃないですか。暴力的に人間の思うがままに「自然」を操ることは、結果として、人間の思い上がりによって地球を滅亡させる未来も作りかねない気がしました。研究者の倫理を問います。

「自然(ネイチャー:Nature)」は自然であるのがいちばん。NatureのないFuture(未来)を危惧します。

これから重要になるのは所得の格差ではなく「モチベーション格差」であると。

そこで文化資本の再分配が必要になるそうですが、本をたくさん持っているかどうかのようなことは関係ない。落合氏の家には本がぜんぜんないそうです。けれども、スマホ電子書籍を読むことができる。

「モチベーション格差」をなくすためには「指針を立てる前に動く」ことが重要であると指摘されていました。「ひるね姫」を挙げられていましたが、あの主人公は現代的であるそうです。ああ、この作品、観たいと思っていたのでした。チェックしておきます。

いいな、と思ったのは次の言葉です。

「スマートなわらしべ長者をめざせ」

解釈すると、一歩踏み出すことによって自分を取り巻くフェイズやコンテクストが変化する。そして、さらに踏み出すことで周囲のテクスチャーが変わる。なんとなくVRの世界のようですが、そうやってまず踏み出すことで何かをつかみ、つかんだものを資本として次の新しいものをつかむことではないでしょうか。

「言い訳野郎になるな」ということを堀江貴文氏もおっしゃっていましたが、同感です。悩んでいるよりも動け、妄想を膨らませているよりも実現可能な計画に落とし込め、と自戒しました。

最後に再び参加者の質問から。

これからの経営者に必要なものは、数学やテクノロジが好きで「萌えるポイント」があること。データなどに対する「感性」だそうです。デザイン的な感性の必要性は感じていましたが、データ(情報)に対する感性は新鮮でした。そこで、ご自身の萌えポイントをシャボン玉に映像を映し出す数式で教えていただいたのですが、3分の1乗とfの2乗に萌えるとのこと。うーむ。分かるような気がしますが、やっぱり分からないかも(赤丸は追加)。

 

f:id:Soseki21:20171001200926j:plain

 

人工知能生命倫理の問題は「深い」とのこと。クローンの問題と同様に、人間として踏み入れちゃいけないような領域にぼくらの世界は加速度的に進展していくような気もします。ホーキング博士が世界の滅亡が100年後であると予測したニュースを見ましたが、人工知能はもちろん、バイオテクノロジーや地球環境の問題も含めて「これだけは守りましょう」というルール作りが必要であると感じます。ミサイルを勝手に飛ばしたり、ロケットマン&ドッグの不毛な諍いなどが起きたりしないように。

図書館が会場だったので、「シンギュラリティ後の図書館」という質問もありました(これって都立中央図書館の方が出したんじゃないかなあ)。落合氏は「図書館いらない」と一蹴。気持ちよかったですね。ただ、公共機能としての図書館は不要だけれど、スペースがあるので、メディアアートなどの空間にしてはどうかとのお話でした。

デジタル資料と本の関係では、「現在のタブレットより解像度が高くなれば、リアルな本はいらない」。ただ、かえってアナログ感が尊重されるかもしれないとおっしゃっていました。個人的にはCDの時代が終わったけれど、いま再びカセットテープが注目されていると感じます。カセットテープを尊重するように、紙の本が尊重されるような時代になるのでは、と。

とにかく講演のスピードが速くレンジが広くて「凄いひとが出てきちゃったな」という印象で、あっという間の2時間でした。おそらくこれも解像度の問題というか、思考のフレームレートが違うというか。

あまりの衝撃を受けて、しばらく図書館の丸テーブルで呆けていましたが、夕陽に染まる公園の木々に囲まれた細道を降りて、タマシイの抜け殻のように帰路についたところ、電車を乗り間違えました。

 

f:id:Soseki21:20171001201627j:plain

 

すべてを網羅できませんでしたが、まとめてみました。主観的な部分も多々あるかと思いますが、記録として少しでもどなたかの役に立てばいいなと考えています。