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次世代の子どもたちには、読解力が必要だ。

本と疑問符:Soseki21ブログ

 

新井紀子著『AI vs 教科書が読めない子どもたち』読了。戦慄を感じた本でした。

3分の2を読んで感想を書きましたが、思った通り残りの3分の1、つまり第3章「教科書が読めない」が強烈な刺激があり密度が濃かったですね。最後にあたっては感動しました。途中で推測したように、他人を理解できないどころの話ではありませんでした。そもそも現在の中高生は「問題が読めない」。

教科書や問題そのものが読めないなら、公式を覚えても歴史を記憶しても、解けないわけです。あるいはとんでもない答えを引き出してしまう場合さえある。TV番組で「◯◯は熱いうちに打て」に対して、ひとりが「悪」と応えるとそれに同調して全員が悪を打てという「新しい常識」を生み出した挿話には恐怖すら感じました。

息子の宿題をみていたときにも思いましたが、著者が指摘する通り最近の子どもたちは、意味の分からない言葉は飛ばして、意味の分かる言葉だけで問題を解こうとする傾向があるようです。そもそも語彙(ボキャブラリー)が貧困であれば、分かる言葉も少なくなるわけで、問題自体が解釈できない。

語彙の貧困さは解釈できないだけでなく、誤った解釈や世界観を生み出します。これは子どもたちに限ったことではないのでは。現在のネットやSNSも同様でしょう。知らない言葉で喋っている人間が気に入らないとすれば、自分に分かる言葉だけで批判する。

子どもたちの読解力に疑問を感じた著者は、全国の中高生にRST(リーディングスキルテスト)という、タブレットによるシステムを自力で開発して実施します。トライアルをやった後で試験に入り、数百問からランダムに問題を出すシステムです。

実際に問題が掲載されていて、おそるおそるぼくも解いてみました。解けた問題もあれば、解けない問題もあった。みずから「読解力は大丈夫か?」と不安になっちゃいました(苦笑)。同義分判定・推論・イメージ固定・具体例同定はAIの苦手な分野ですが、その分野は中高生も苦手という調査結果を提示されています。

さらにショックだったのは基礎読解力に「読書習慣」は相関性がないということ。本を読んでいる人間が必ずしも読解力があるわけではないそうです。学習習慣、得意科目、スマホの利用率、性別にも相関はないという調査結果でした。どうすりゃいいんだ?

しかし、埼玉県戸田市の試みに一縷の光を感じました。コツコツRSTテストを実施して授業を研究し改善を実戦することによって、学力が飛躍的に伸びたとのこと。また「教えたら、わかる」と子どもたちを信じている先生たちの姿勢も素晴らしい。

このような状況下では、「AI時代を克服!読解力向上の学習ドリル」を出版したり塾を作れば売れることでしょう。しかし、新井氏はきっぱりと否定しています。「科学的に検証されてもいないことを「処方箋」として出版するほど倫理観は欠如していません」と。かっこいい。潔い。

著者は年間本を5冊ほどしか読まないと告白されていらっしゃいますが、次の言葉に自省しました。「自分ではない赤の他人が何年もかけた本を理解するためには、著者が要した時間の倍はかかって当たり前だと思いませんか?」。確かにその通りかもしれません。精読、深読に読解力工場のヒントの予感があるそうです。

AI導入が経済や労働市場を破壊するのは「一物一価」「情報の非対称性」「需要と供給による価格の決定」という経済用語のキホンを覆すから、と述べています。Amazonなどの例を出すまでもなく、AIによって買い手は最適な情報を即座に得られ、これまでのビジネスの常識は通用しなくなります。

AI人材にとって、三角関数微積分、行列の数学は必要なのだそうですが、文部科学省は行列を高校の指導要綱から外してしまった、と。何を考えているんだろう。ただ、絶望のなかで少し元気になったのは、「いくつになっても、読解力は養える」ということでした。要は経験値で、読み取ることを集中して行えば、読解力は向上するようです。

「AIは自ら新しいものを生み出せません」と断言し、効率化によって人間はさらに過酷な労働が強要されブラック企業化するとも語られています。一方、糸井重里さんのような少量で、物語の価値があるハンドメイド生産のビジネスモデルに光明を見出されています。

最後に、超・感激したのは新井氏が、この本の印税を1円も受け取らず、RSTを提供する社団法人に全額寄付すると決めたことでした。つまり、次世代の子供たちのためにこの本の対価が使われるわけです。胸のすく思いだったなあ。この本を買ってよかった。

功利主義で自利の追求しか考えない企業や個人や出版社が多いなかで、本を買った人間がわずかでも社会貢献できることは、読者としてこれほど嬉しいことはありません。著者の粋な決断に次世代の子どもたちへの深い愛情を感じました。爽快な読後感でした。

 

AI vs. 教科書が読めない子どもたち
 

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